2017年3月1日水曜日

『スモーク』デジタルリマスタ―版 at 元町映画館

 『スモーク』デジタル・リマスター版を鑑賞に元町映画館へ。

 もう20年経ったというのが信じられない。初めて見たのは95年の東京国際映画祭だった。当時院生で人生でもっともオースターに浸りオースターを愛していた幸せな時期であった。オースター読んでオースターについて何か書ければもうそれで幸せっていう日々。そんななかオースターが映画作ったらしいという話に心沸き立ち、楽しみにして見に行った。

 当時の印象は、スリリングな小説作品に比してずいぶん「いい話」だなあってかんじで、こういうハートウォーミングなのが見たいのではないのだけど、とか思っていた。若かったんだと思う。でもやっぱりオースターなので好きで、いつもの逸話(書いた本をタバコにして吸ってしまったバフチンの話、自分より若い父親を発見した息子の話)が出てきたり、親子や孤児、金、といったおなじみのテーマが出てくるのも嬉しかった。

 その後何度も何度も見た映画だけど、久しぶりに見たらまた発見があった。オースターの息子が出てるのを知った。タバコ屋で万引きする子の役。

 最初はなんだかセリフで説明しすぎている気がしたけど、すぐに気にならなくなっていく。作家が書いたというのがよくわかる映画。で、プロットにはいろんな要素が詰め込まれた上にうまく繋げられていて、やはり脚本がいいのだと思う。オーギーの定点観測の写真は被写体ではなく時間を写し取り、彼が「俺の街角」を慈しむ行為でもある。これだけでも豊かなエピソードなのに、それがポールの妻の話につながり、最後のクリスマスストーリーにもつながって、見事に回収されていく。

 特に古い感じはしなかったけど、やはりケータイはないのでみんな前見て歩いているし、カフェでラップトップ開いている人もいないので飯食ったりコーヒー飲んだり、自然に手持無沙汰である。そうだ、ケータイやPCは手持無沙汰を消してしまったな。本来ニンゲンは手持無沙汰な生き物なのに。生きている多くの時間、ニンゲンの手は仕事なしのままぶらぶらそわそわしてるもんだった。

 そんな仕事にあぶれた手が何をしていたかというとタバコである。箱から出したり指に挟んだり火をつけたりもみ消したり。ニンゲンは喫煙をやめて以来手持無沙汰に耐えかねてスマホを発明した、という仮説を主張したい。

 まあみんなタバコばっかり吸ってる話なのでこちらも当然吸いたくなる。帰りに大きなタバコショップに寄ってシュンメルペニンクありますか?なんて聞いてみる。もう禁煙して20年にもなるのに。置いてなかった。たぶん日本には入っていないって。そういや20年前も探したんだよな。2000年にオースターをブルッククリンに訪ねたとき、彼はやはりシュンメルペニンクを(少なくとも細身のシガリロを)吸ってた。そのころもう自分はタバコやめてたんだろうな。

 やはりよくできた映画だと思う。最後のモノクロ再現でのトム・ウェイツは何度見てもグッとくる。

 ファンが多いのか、平日昼間なのにお客さんいっぱいだった。隔日でデジタルとフィルムを交互に上映してるというので、今度はフィルム版を見に行くことにした。

 元町映画館は初めて行ったけど、想像していたより広くて綺麗でいい劇場。甲南の人科の卒業性の宮本さんってのが一生懸命でナイスである。

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